生産者の声
日本では栽培が難しいとされてきたマカ。
その挑戦に向き合い、十年以上の歳月をかけて日本でのマカ栽培を成功に導いた人たちがいます。
今回お話を伺ったのは、長年マカの研究と普及に取り組んできた日本マカ株式会社 代表取締役 小池 浩俊さんと、
九州の肥沃な大地でマカを育て続けている契約農家の小原さんのお二人です。
日本でマカを育てることの難しさや喜び、
そして国産マカに込めた想いについて、じっくりとお話を伺ってきました。

「マカを日本で育てるという挑戦」
アスヘノカケハシ編集部(以下、アスカケ):活動を始められて、もう 13 年になりますか?
小池:そうですね、約13年になります。
アスカケ:最初のきっかけは、どういったことだったのでしょうか?
小池:福島の復興支援がきっかけです。スタートは福島でした。
アスカケ:福島で、いきなりマカの種を手に入れて、栽培されたのですか?
小池:いえ、我々の会社は、もともと福島を支援するために設立されたもので、生産そのものに関わるつもりはありませんでした。できあがったものを、より広く展開していこうと。その手段の一つがマカだったんです。
アスカケ:では、すぐに栽培には移らなかった?
小池:ええ。1年半ほど、マカについて調査を重ね、個人ユーザーにも試してもらう中で、「福島産ではマカは売りづらい」という厳しい状況を確認しました。つまり、簡単に福島で支援の形がつくれるものではなかったんです。
アスカケ:そこから方向転換を?
小池:はい。「マカを本当に日本で根付かせたいなら、福島にこだわらず全国で栽培していきましょう」と福島の方々に相談したところ、ご賛同頂きました。
アスカケ:全国での栽培がスタートしたのですね。
小池:はい。そこから北海道から鹿児島まで、約50軒の生産者に声をかけました。当時、私自身は農業の専門家ではなかったので、福島の方々が栽培指導しました。しかし、環境が変わればどのように栽培したらいいかわからないということでした。マカの栽培は難しいかもしれないが何とかなると甘い考えでした。
アスカケ:それでも賛同してくれた農家さんたちがいたと。
小池:ええ。「マカって面白そうだね」と、単純な興味から始めてくれた方が多かったんです。マカは他とはまったく違う、面白い作物だと感じた方たちですね。
アスカケ:逆に、最初から「儲けよう」と思って始めた方は少なかったと?
小池:そうですね。収益のことだけを考えていた人たちは最初の段階ではほとんど参入していませんでした。マカは 1 年に 1
回しかチャンスがない作物で、失敗する確率も高い。だからこそ、純粋な興味と挑戦心がなければ続けられません。
アスカケ:現場では、やはりかなり大変だったのでは?
小池:そうですね。実際に土地を耕し、種をまき、気候に向き合って……。最初の4,5年は特に失敗続きでした。九州では 4〜5年作っても成果が出なかったこともあります。
アスカケ:厳しい言葉を受けることも?
小池:はい。福島のある名人に「5年やって作れないなら才能がない」と言われた生産者もいました。せっかく時間を割いて集まったのにそんな言葉しかなかった。怒りや悔しさもあって、「だったら自分たちのやり方で成功させてみせる」と強く思いました。
アスカケ:それが逆に火をつけたわけですね。
小池:ええ。いろんな人たちが協力してくれて、「じゃあこういう栽培方法はどうだろう?」と実験を繰り返しました。日本各地で栽培していたおかげで、地域ごとの違いも含めたノウハウが蓄積されていったんです。
アスカケ:それが「ケーススタディの積み上げ」ということですね。
小池:まさにその通りです。気候、水分量、土壌、日照……すべてが地域によって異なりますから。だからこそ、私が全国を見て回って、情報をフィードバックしながら、栽培技術の向上を図ってきました。
アスカケ:会長(生産者)さんも、最初の2年は失敗されたと伺いました。
生産者:はい。今でこそ立派な畑ですが、当初はやはり収益が出ず、厳しい状況でした。でも諦めず、失敗から学び、3 年目にやっと少し成果が出ました。4
年目でようやく「成功」と言えるレベルに近づいたかもしれません。
アスカケ:新たに始める方々にとっては、その積み上げた経験が大きな財産になりますね。
小池:そう思います。今の生産者たちは、私たちの失敗の事例から学ぶことで、比較的スムーズに栽培ができるようになってきています。ですが、当時は手探りでした。1
年に 1 回しかないチャンスで失敗すれば、また1年待たなければならない。
アスカケ:そういった厳しさを乗り越えて、今があるのですね。
小池:はい。農業には頑固な方も多いですが、会長(生産者)のように柔軟で、他の人の意見も取り入れられる方は本当に貴重です。全国のマカ生産者は、そういった協調性と向上心がある方ばかりです。
アスカケ:マカは特に、普通の農作物とは違うんですね。
小池:まったく違います。普通の方法では通用しません。だからこそ、生産者たちも毎年気候変動などと向き合いながら、新たな栽培方法を模索しています。
アスカケ:天候によっては、収穫ゼロのリスクもある?
小池:はい。普通の野菜なら収量が
30%減ったとしても、ある程度は収穫できます。でもマカの場合、年によっては「ゼロ」もあり得ます。だからこそ、事前の予測や対応策を考えておくことが非常に重要です。
アスカケ:天候によっては、収穫ゼロのリスクもある?
小池:気候変動はますます激しくなっています。来年どうなるかを予測して、柔軟に対応策を考え続けなければなりません。それでも全国の仲間たちと共に知恵を出し合いながら、マカを日本の新たな作物として育てていきたいと思っています。

「自然と向き合いながら生きる」――農業の現場から聞く、挑戦と喜び
アスカケ:やっていて、一番嬉しかった瞬間はどんなときですか?
生産者:やっぱり、最初に成果が出たときですね。はっきり覚えているのは、就農して4年目でした。そのときは本当に嬉しかったです。
アスカケ:成功を感じたタイミングだったんですね。
小原:はい。1300キロの収穫があった年だったと思います。それまでずっと苦労が続いていたので、本当に感慨深かったです。
アスカケ:この土地ならではの特徴や、他の地域と比べて農業に適していると感じる点はありますか?
小原:そうですね、まず地形が比較的なだらかで、作業しやすいのがありがたいです。それに、ここは海がすぐ近くにあるんですよ。その海風が運んでくるミネラル分が、土壌に良い影響を与えてくれているんじゃないかと感じています。
あと、寒さで作物が傷むことも少ないですね。もちろん、台風はどうしようもないですが、日照時間も十分ありますし、全体的に栽培に向いた環境だと思います。
アスカケ:火山灰の影響などはありますか?
小原:今はほとんどないですね。たまに桜島の噴火で、北風に乗って火山灰が飛んでくることもありますが、そこまで深刻ではないです。ただ、お茶の栽培には火山灰があまり良くないので、そういう場合は専用の洗浄機を使って対策しています。
アスカケ:なるほど。土地の力というのは大きいですね。
小原:はい。昔の火山活動での恩恵を受けた土壌、それが良い影響を与えている部分もあると思います。例えば味が良いとか、栄養価が高いとか。そういった意味で、農業に適した土地だと思いますね。
アスカケ:反面、塩害のようなリスクはありますか?
小原:作物によってはありますね。風で塩分が運ばれてくるので、それが作物に悪影響を与えることもある。でも、そういった点も考慮しながら、何を育てるか選んでいく必要があります。
アスカケ:最近は、都会から農業に興味を持って参入してくる若者も多いと聞きます。そういう方たちにメッセージをいただけますか?
小原:やっぱり農業は自然との闘いです。技術ももちろん大切ですが、それ以上に自然が相手ですから、思うようにいかないことも多い。ですから、しっかりと覚悟を持って取り組んでほしいですね。
あと、勉強も必要です。同じ作物を育てても、土壌や気象条件で全く結果が違ってきます。気象学や土壌学、栽培技術など、総合的な知識を身につけないと、なかなか続けていくのは難しいと思います。
アスカケ:まさに自然相手の仕事ですね。
小原:そうですね。今もまだ安定しているとは言えませんが、これからも続けて、少しずつでも安定させていきたいという思いはあります。
アスカケ:それでも挑戦を続けていくと。
小原:はい。周りでも辞めてしまう人もいますが、自分はやり続けたいと思っています。せっかくやるなら、やっぱり仲間の中でもトップを目指したいですし、この地域でもっと取り組んでいけたらと思っています。
アスカケ:では最後の質問です。この「マカ」という作物の魅力は、どんなところにあると思われますか?
小原:一番の魅力は、誰もやっていないものに挑戦しているという点です。自分が育てたものを人に食べてもらって、「美味しかった」と言われると、本当に嬉しいですね。たまたま鹿児島の会社の社長さんが、私の作ったものを味噌汁に入れて食べたそうなんですが、「すごく元気になった」と喜んでくれて。それを聞いたときは、やっぱりやってよかったなって思いました。